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仙台高等裁判所 平成6年(行コ)5号 判決

仙台市青葉区大町二丁目一一番一〇号

控訴人

株式会社ディスプレイセンター

右代表者代表取締役

下永正行

右訴訟代理人弁護士

鹿野哲義

小池達哉

仙台市青葉区中央四丁目五番二号

被控訴人

仙台中税務署長 島知弘

右指定代理人

黒津英明

阿部覚己

成瀬利重

粟野金順

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、平成元年六月二八日付でした更正処分及び重加算税の賦課決定処分(ただし、平成元年一一月八日付の異議決定により一部取り消された後のもの。以下「本件更正及び重加算税の賦課決定処分」という。)のうち、所得金額を五七一五万六七〇五円として計算した額を超える部分を取り消す。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決五枚目表一〇行目の「しかし」から同裏一行目の「ない。」までを削除する。

2  同一〇枚目表一〇行目の「原告対する」を「控訴人に対する」と改め、同裏三行目の「右貸付けのうち」から同四行目の「である。」までを削除する。

二  当審における控訴人の主張

1  有限会社キーセンター鍵錠(以下「キーセンター」という。)が倒産したのは昭和六三年四月である。

2  控訴人は、本件事業年度において、キーセンターに対して八一六七万六四四八円の貸倒損失があるものであるが、被控訴人は、そのうちの七九一七万六四五八円は、正行(控訴人の代表者)個人の貸付けに係るものであるとして、これを損金に算入することを否認した。

しかし、被控訴人が否認した貸付けは、次のとおり、いずれも控訴人がキーセンターに対して貸付けをしたものである。

(一)  控訴人は、キーセンターに対し、昭和六二年一二月二八日、一五〇〇万円を貸し付けた。キーセンターは、その支払の担保として、フドー企画振出の金額七五〇万円の約束手形二通(裏書人は栗原興産)を控訴人に差し入れた。

(二)  控訴人とキーセンターは、昭和六三年一月下旬ころ、それまでの債権債務を確認し、手形の差入れのない貸付分は六五〇〇万円であると合意をして、これをもって消費貸借の目的とすることも約した。

これに基づき、キーセンターは、控訴人から六五〇〇万円を借り受けた旨の借用証を控訴人に差し入れ、控訴人はキーセンターから金額一〇〇万円の約束手形三四枚の振出交付を受けたものである。

3  右準消費貸借契約が締結された事情は、次のとおりである。

キーセンターに対する貸付けは、昭和六二年九月七日に正行が控訴人の代表者に就任するまでは、正行個人が貸付けをしていたものであるが、それ以降は控訴人自身がキーセンターに融資をしていたものである。

ところが、正行又は控訴人とキーセンターとの間には、長期間にわたり多数回の金銭貸借の取引があり、利息の支払が遅れているなどして、その額が必ずしも明確とはいえなくなっていたこと、借用証、領収書もすべてについて存在していたわけではなかったこと、正行名義でキーセンターに貸し付けていた債権は、控訴人が正行のために高松興産に対して九〇〇〇万円の代位弁済をしたことにより、控訴人に移転(債権譲渡)したことをキーセンターに承認させる必要があったこと、これらのことから、控訴人とキーセンターは、昭和六三年一月末ころ、次のキーセンターに対する貸金債権(合計六五〇〇万円)をもって消費貸借の目的とすることを約したものである。

(一)  控訴人がキーセンターに貸し付けた債権(昭和六二年九月七日から昭和六三年一月末ころまでの間に控訴人が貸し付けた債権)

(二)  正行個人がキーセンターに貸し付けた債権(昭和六〇年秋から昭和六二年九月六日までの間に正行個人が貸し付けた債権。正行はこれを控訴人に債権譲渡し、キーセンターはこれを承諾した。)

4  本件準消費貸借契約は、和解類似のタイプのものである。このような場合は、旧債務不存在の立証責任は債務者(本件では課税庁)に負わせるのが妥当である。

三  当審における被控訴人の主張

1  控訴人は、キーセンターに対して八一六七万六四四八円の貸倒損失があるとしている。

しかし、そのうち、控訴人が昭和六一年七月一日にキーセンターに貸し付けた六〇〇万円は、控訴人の資金をもって貸付けをし、その貸付け及び回収については控訴人の会計帳簿に記載されていることから、控訴人自身の貸付金と認められたので、当該貸付金に係る二四九万九九九〇円の貸倒損失については損金に算入することが認められたが、その余の七九一七万六四五八円は控訴人の代表者である正行が個人で行っていた貸付けによって生じたものであり、控訴人に帰属するものではないから、右貸倒損失を控訴人の所得金額算定上の損金の額に算入することはできないものである。

2  正行は、昭和六一年七月三日、高松興産から九〇〇〇万円の借入れをして、キーセンターに融資をしていた。控訴人は、昭和六二年七月一日、正行のために高松興産に右借入金の返済をした(これは控訴人が正行の借入金を肩代わりして高松興産に弁済をしたものである。)。

ところが、控訴人は、これを高松興産に対する貸付けとして経理処理をしたうえ、昭和六三年一月三〇日、高松興産に対する貸付金として経理処理をした右九〇〇〇万円のうち、八〇二四万三三八八円を現金で回収したとしたうえ、これをキーセンターに貸し付けたとする旨の経理処理をした。

そして、正行は、キーセンターの代表者である橋本をして、金額を六五〇〇万円、宛先を控訴人とする旨の昭和六三年一月三一日付の借用証を控訴人に差し入れさせた。

3  しかし、被控訴人側の反面調査の結果、控訴人は、高松興産に対して昭和六二年七月一日に九〇〇〇万円を貸し付けたことも、昭和六三年一月三〇日に高松興産から右貸付金を回収したことも、これをキーセンターに対して貸し付けたことも、いずれもないのに、事実に反する会計処理をしていたことが判明した。

控訴人は、被控訴人側の調査担当者から、その旨の指摘を受けるや、会計処理は事実と異なっているが、これは従来から控訴人の簿外貸付金として存在していたものを公表経理に組み入れたものである旨主張を変更し、被控訴人に対して、昭和六二年一二月二八日に貸し付けた一五〇〇万円と、昭和六三年一月下旬ころ合計六五〇〇万円の貸金債務をもって消費貸借の目的とすることを約した準消費貸借金六五〇〇万円の債権を有している旨の主張をしてきた。

しかし、これはいずれも正行個人の貸金であるものを控訴人の貸金であると仮装したものである。

4  控訴人は、本件事業年度において、不動産を売却したことにより多額の譲渡益が生じたことから、これに伴う租税負担の回避を図るため、同族法人を利用し、実体のない取引を仮装、作出し、架空の違約金を損金に算入し、更に、代表者個人(正行)の貸付金のうち、回収の見込みのない貸付債権(正行のキーセンターに対する貸付債権)を控訴人の貸付債権であるかの如く作為し、債務者キーセンターをして控訴人に対する債務であるとした実体のない借用証を作成するよう誘導するなどして、これに係る貸倒損失を計上することによって、所得金額を過少に表示した決算書に基づき虚偽の確定申告書を提出したものである。

被控訴人が行った本件更正処分及び重加算税の付加決定処分はいずれも適法である。

四  証拠関係

原審及び当審における各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

甲第六二号証(正行の陳述書)、当審証人橋本順子の証言のうち、右引用に係る原判決の認定に反する部分は採用することができない。

一  原判決の付加訂正

1  原判決一九枚目表四行目の「、その際」から同五行目の「ないこと」までを削除する。

2  同二〇枚目表一〇行目の「前記のとおり、」を削除し、同一〇行目の「事実も」から同一一行目の「のである」までを次のとおり改める。

「事実も認められないものである(控訴人は、控訴人が正行のために高松興産に代位弁済をして正行に対して求債権を取得したことから、正行のキーセンターに対する貸付債権は正行から控訴人に移転し、その後も、正行がキーセンターに貸付けをしたものについては、その都度その債権は控訴人に移転したものと認識(理解)をしていたとしているが、認識をしていたというだけでは譲渡の意思表示をしたものと認められないことはいうまでもない。)」

3  同二〇枚目裏五行目の「のみを示し」から同七行目の「かかる」までを「を示し、キーセンターに対する」と改める。

4  同二三枚目表二行目の「昭和六二年」を「昭和六三年」と改める。

二  当審における控訴人の主張について

1  控訴人は、控訴人とキーセンターは、昭和六三年一月下旬ころ、控訴人とキーセンターとの間に、六五〇〇万円の債権債務があることを確認して(控訴人は、キーセンターには、控訴人が貸し付けた債権と正行個人が貸し付けた債権とがあり、後者については、控訴人が正行から債権の譲渡を受けたものとしている。)、これをもって消費貸借の目的とすることを約したものであると主張する。

2  しかし、原判決の認定のとおり、キーセンターに貸し付けられた金員は、いずれも正行が貸付けをしたものであるから、キーセンターに対する債権は、控訴人の債権ではなく、正行個人の債権であるといわなければならない(控訴人は、キーセンターから控訴人宛の昭和六二年一一月三〇日付の二〇〇〇万円の借用証があるとしているが、控訴人の会計帳簿にはその旨の記載がなく、控訴人は昭和六三年一月三〇日にキーセンターに対して八〇二四万三三八八円(同日高松興産から回収した金員であるとして)を貸し付けた旨の経理処理をしているものであり、にわかに信用することができない。)。

3  控訴人は、正行が高松興産から借り受けた九〇〇〇万円は、控訴人が高松興産に対して代位弁済をしたことから、正行はキーセンターに対する貸金債権を控訴人に債権譲渡した旨主張する。

しかし、キーセンターに対する貸金債権は貸倒損失として損金に算入しなければならないような不良債権である。このような債権を会社の代表者が会社に債権譲渡するということは通常考えられないところである。

会社に対して債務を負担している代表者が、会社に対して、実際に取立てをすることができないような不良債権を譲渡することによって、自己の会社に対して負担している債務を対当額において消滅させるような、会社に不利益な行為をするということは、会社のために忠実にその職務を執行すべき立場にある会社の代表者としては、会社に対して背任行為であるといわなければならないものであるから、通常会社の代表者がこのような行為をするということは考えられないこととしなければならない。控訴人と正行との債権譲渡は、控訴人の租税を回避するために行われた仮装行為であるとみるのが相当である。

4  租税を回避する行為(課税負担を免れるような行為)が許されないものであることはいうまでもない。形式と実体(あるいは実質)が食い違っている場合には、形式に従うのではなく、実体に従って処理されなければならないものである(形式上存在しているようにみえる法律関係に即してではなく、真実存在している法律関係に即して処理されるべきものである。)。

従って、形式によれば、控訴人の債権であるとみられるものであるとしても、実質は、控訴人の代表者である正行個人の債権であると認められるキーセンターに対する債権については、実質課税の原則に照らして処理されなければならないものとしなければならない。控訴人の主張は理由がない。

5  控訴人は、昭和六二年一二月二八日に、フドー企画振出の約束手形二通(金額合計一五〇〇万円)を担保に差入れさせて、キーセンターに対し一五〇〇万円を貸し付けた旨主張する。

しかし、甲第五四号証の一ないし三によれば、キーセンターが裏書をして交付したフドー企画振出の七五〇万円の約束手形は、正行個人が裏書をして取立てにまわしていることが認められることからみて、その貸付けは実質的には(経済的には)正行個人に帰属している貸付けであると解するのが相当である。控訴人の主張は理由がない。

以上のとおり、控訴人の請求は理由がない。

よって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗栖勲 裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官武田平次郎は退官のため署名捺印することができない。裁判官 栗栖勲)

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